アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ(ミリシタ)の新曲タイトル「dans l'obscurité」とその歌詞に登場するフランス語の読み方や意味などについて解説します。



【2019/08/03追記】公式によるタイトルの読み方の訂正

8月1日、なんとっ! タイトルの読み方が訂正されました。
プロデューサーの皆さんこんにちは
「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」からのお知らせです。

7月6日に発表致しました「プラチナスターツアー~dans l’obscurité~」 の
イベント楽曲「dans l’obscurité」について、
タイトルの読み方に誤りがございましたため、
以下の通り修正を行いましたのでご報告いたします。

(誤)ドン ロビュスキュリテ
(正)ドン ロプスキュリテ


ゲーム内の表記、 ボイス等は順次修正してまいります。
以後、このような事のないよう努めて参りますので
今後とも宜しくお願い申し上げます。

【ミリシタ】イベント楽曲「dans l'obscurité」読み方の訂正

これに対するP達の反応は、「百合子が間違えたんだな」「黒の歴史化してしまった」「かっこつけて外国語使ったけど読み方間違えてるの、まさに中二病っぽい」という感じでした。

ドンロビュスキュリテ

【追記ここまで】

dans l'obscurité の読み方

ミリシタ公式では「ドンロビュスキュリテ」となっていますが、実際のフランス語の発音はどうでしょうか。

まず、dans の発音は /dɑ̃/ です。母音 /ɑ/ は英語の dot /dɑt/ や on /ɑn/ の母音と同じで「ア」とも「オ」とも聞こえる音なので、dans はカタカナで書くと「ダン」か「ドン」になります。一般的には dans のスペルに引っ張られて「ダン」と書かれることが多いと思いますが、聞いた感じでは「ドン」のほうが近いです。

次の obscurité の発音は /ɔp.sky.ʁi.te/ で、「オプスキュリテ」と書けます。定冠詞 l' も含めると「ロプスキュリテ」になります。公式の「ロビュスキュリテ」という表記は、発音からは結構遠いです。

なぜ b なのに p と読むのか?というと、単純に言えば「そういうルールだから」なのですが、ではなぜそういうルールになったのかというと、それはフランス人にとってそっちほうが読みやすかったからです。具体的に言うと、s が後ろに続くときの b は p と読んだほうが発音しやすかったということになります。英語の have to が「ハフトゥー」と読まれるのと同様の現象です。

というわけで、結論としては、dans l'obscurité は「ダン・ロプスキュリテ」か「ドン・ロプスキュリテ」という表記(読み方)が相応しいと思います。


dans l'obscurité の意味

dans l'obscurité の意味は、わかちこPこと狭間和歌子さんが生放送で仰っていた通り「闇の中へ」です。あるいは、ミリシタのイベントコミュ第2話で百合子が言っていた通り「闇の中で」です。

dans は前置詞で「中で(in)」「中へ(into)」「中から(out of)」などの意味があるようです。

obscurité は名詞で「闇(darkness)」「不明、無名(obscurity, unknown)」の意味があります。後者の意味を使うと、dans l'obscurité は「人知れず」「忘れられて」というような意味にもなります。

obscurité は女性名詞なので定冠詞として la(英語の the に相当)が付くところですが、母音で始まるのでエリジオンが起こって l'obscurité になります。


-ジュテイム-

これはフランス語で「君を愛している」という意味の「je t'aime」を表しているのでしょう。その場合、発音は /ʒə t‿ɛm/ で、カタカナでは「ジュテム」が近いです。日本では「ジュテーム」という表記をよく見かけます。

しかし、英語の aim(エイム)のように「イ」の音が入っているわけではないので、je t'aime を「ジュテイム」と表記するのは変だなと思います。


aime-moi<エメモワ>

意味は「私を愛して(love me)」です。人称代名詞を使うフランス語の命令文では、動詞(aime)と人称代名詞(moi)の間にハイフンを入れるので、aime-moi になります。

発音は /ɛm mwa/ で、「エンモワ」に近いです。カタカナ表記であれば「エムモワ」とも書けます。両者の違いは、英語の time machine を「タインマシーン」(発音には近い)とするか「タイムマシーン」とするかの違いと同じです。

「エメモワ」と発音したいのであれば、スペルは「aimez-moi」になります。意味は同じく「私を愛して」です。

では何が違うのかというと、「愛する」の主語が違います。「aime(エム)」は「tu(トゥ)(二人称の親称)」を主語に取りますが、「aimez(エメ)」は「vous(ヴ)(二人称の敬称または二人称の複数)」を主語に取ります。親称とは親しい(心の距離が近い)人や目下の人を指しての「あなた」であり、敬称とは親しくない人や目上の人を指しての「あなた」です。便宜上、前者を「君」、後者を「あなた」と訳す場合もあります。

さらに、ややこしいのですが、二人称の敬称は複数(あなたたち)の意味も持っています。親称か敬称かにかかわらず、複数の相手を指す場合に使うのは vous です。

実は英語にも、昔は親称(thou)と敬称(you)があり、現代では you だけが残ったという経緯があるのですが、話が脱線しすぎるのでこの辺で……

つまり、「aime-moi」は「君が私を愛して」というような意味であり、「aimez-moi」は「あなた(様)が私を愛してください」や「あなた達が私を愛して」というような意味になります。

ちなみに、神に対する二人称は一般に親称を使うそうです。すなわち、「aime-moi」は「神様、私を愛してください」という意味にもなります。

また、上述の je t'aime では親称の t'(元の形は te)が使われています。なお、敬称(または複数)を使うと je vous aime(ジュヴゼム)になります。


ta mémoire<タ・メモワ>

意味は「君の記憶」です。ta は親称です。上でも述べた通り、神に対して「あなたの記憶」と言っているのかもしれません。敬称(または複数)を使うと votre mémoire(ヴォトル・メモワール)になります。

発音は /ta me.mwaʁ/ で、カタカナで書くなら「タ・メモワール」とするのが標準的だと思います。フランス語で「黒」を意味する noir /nwaʁ/ を一般に「ノワール」と書くのと同様です。ただ、最後の /ʁ/ があまり聞こえないので「タ・メモワ」に聞こえる可能性もなくはありません。なお、/ʁ/ は喉彦で「ハ」や「グ」とも聞こえるような音を出す音声(有声口蓋垂摩擦音)ですので、よかったら調べて練習してみてください。


アポストロフィ

公式ブログを読んでいたら「dans l‘obscurité」という表記になっているのに気づきました。これはアポストロフィが逆になっています。曲がった引用符をアポストロフィに使うのであれば、右シングルクォーテーションを使って「dans l’obscurité」としましょう。

なお、本記事では曲がった引用符ではなく、まっすぐな引用符を用いて「dans l'obscurité」と書いています。まっすぐな引用符は右も左もないので楽ですが、真面目な媒体では使用が避けられることもある記号なのだそうです。


おわりに

色々と文句みたいな文章を書きましたが、別に本来のフランス語に近い表記をすることが絶対ではないと思っています。ちょっと変わった表記は「ミリシタの固有名詞」や「独特の表現」と捉えることもできます。ただ、できるだけ正確に表記されていれば、比較的正しい知識を広めることができたり、作品のツッコミどころ(不完全さ)を減らすことができたりするので、そっちのほうが個人的にいいなと思う次第です。

なお、本記事はWiktionaryとネットを駆使して調べた付け焼き刃のフランス語知識で頑張って書いたものになりますので、ご指摘があればコメント(公開)かメッセージ(非公開)でお送りください。

【追記】こういう歌やアニメなどで外国語を使うのは、多くの人に外国語に興味を持ってもらうきっかけになるので良いものだと思います。ですので、運営におかれましてはこの黒歴史にめげずに、どんどんドイツ語やフランス語やロシア語などを使って中二病ソングを生み出してほしいですね! 外国語の監修をつけてもらって!